止まらず進むグローバリゼーション

 

止まらず進むグローバリゼーション

 

 

 

日本人は旅行が下手だ(テロ時代の海外旅行術)

 

人気の観光地でテロが起き、行き先選びに悩む時代。

だが日本人の「安全性」に対する意識はどこかおかしい。

 

東京で会社経営をする花霞(かすみ)和彦は年に10回ほど海外へ旅行に行く。自分でホテルと航空券を手配し、ほとんどは一人旅。これまでに100カ国以上を訪れ、特に世界遺産は1000件超あるうちの3割以上を見てきたという旅の上級者だ。

 

だが意外なことに、世界遺産ギザのピラミッドを擁するエジプトには行ったことがない。「これまでに2、3回行こうと計画したが、その都度、アラブの春やテロが起こって断念した」

 

そんなエジプトにも今、観光客が戻りつつある。2月にプレスツアーでエジプトの観光業を視察した記者によれば、「ホテルもピラミッドも中国人でいっぱいだった」。過去最高の観光客数は10年の1473万人。10年末からのアラブの春以後は政変に揺れ、観光業が大打撃を受けたが、昨年は11月までに750万人が世界から訪れている。

 

しかし、日本人の戻りは鈍い。エジプトは11年、観光客数が対前年比33%減と落ち込んだが、このとき日本人は年間13万人弱から3万人弱へと、一気に80%も減少した。以来、1万〜3万人台と低いままだ。

 

もちろん、誰だって危ない目には遭いたくない。だが「旅は基本的に危険なものと認識すべきだ」と、外務省と連携して海外に行く日本の個人や企業に危機管理情報の提供などを行う、海外邦人安全協会の小野正昭会長は言う。

 

「窃盗など海外旅行にはさまざまなリスクがあるが、近年はテロや自然災害、感染症など、防ぐのが困難なリスクに直面してきている」

 

ここ数年、人気の観光地や欧米の主要国でもテロが相次ぎ、旅行先選びが難しくなってきたのは確かだ。15年のパリ同時多発テロ、16年の米フロリダ州ナイトクラブ銃乱射事件、17年のロンドン橋テロ......。小規模な事件まで含めればきりがない。花霞のような上級者ですら影響を免れないのだから、旅慣れていない人はなおさらだろう。

 

これだけ世界が「危険」になったら、一体どこへ行けばいいのか――そう感じている人は少なくないはずだ。しかし、多くの観光業関係者が言うように、日本人は治安に敏感。いやむしろ、敏感過ぎるのではないか。

 

グアムが怖いから沖縄へ?

怖いからといって、海外に行かないのはもったいない。格安航空会社(LCC)とオンライン旅行会社の普及により、世界は格段に近くなった。世界経済フォーラムによれば、世界の観光業は6年連続で世界経済全体を上回る伸びを見せており、16年には延べ40億人近くが飛行機を利用した。

 

世界中の人が旅行を楽しんでいる時代に、日本人は「危ないと思われる」場所を今後も避け続けるのだろうか。

 

そもそも、本当にそこは危険なのか。安全性が問われる時代だからこそ、どこがどのくらい危険かをきちんと見極める必要がある。

 

実際、経済平和研究所(オーストラリア)の17年の調査によれば、中東の紛争やヨーロッパの難民危機に報道が集中するなか、見逃されている変化もある。調査対象の163カ国・地域のうち、67%で「殺人率」が減少しているのだ。地域別で見ると、特に南米が16年の前回調査から最も改善している。世界が一様に「危険」になっているわけでは決してない。

 

結局、海外旅行は危ないのか、危なくないのか──。

 

現実には日本国内も含め、100%安全な場所などどこにもない。問題はイメージや一時の報道だけで判断してしまうことだ。特に日本人はその傾向が強いように思える。

 

「昨年下期に北朝鮮のミサイル問題があって、日本人の足がグアムから遠のいた。当社でも、行き先の選択肢からグアムを外すお客様が多かった」と、海外ウエディング・ハネムーン専門の旅行会社のマネジャーは言う。

 

グアムは結婚式に加え、修学旅行でも人気の観光地だが「代わりにどこへ行ったかというと沖縄。昨年の沖縄は特に修学旅行の受け入れ数が伸び、特需だったと聞いた」。北朝鮮が中距離弾道ミサイルをグアムに向けて発射する計画だと報じられたが、沖縄もミサイルの射程内で、米軍基地がある点でも変わりはないのだが。

 

こんな事例もある。

韓国で15年にMERS(中東呼吸器症候群)コロナウイルスが蔓延したとき、顧客企業から「トランジットでソウルを経由するが大丈夫か、といった問い合わせまで受けた」と、インターナショナルSOSの日本法人のメディカルディレクター、葵(あおい)佳宏は言う。

 

咳をしている人を避け、マスクを着け、手洗いとうがいを徹底すれば2時間の空港滞在は問題ない。「正しい知識があれば、不用意なキャンセルは減らせる」

 

インターナショナルSOSは海外医療と渡航安全のサービスを企業や政府、国際機関に提供する企業で、フォーチュン500社の69%、日本でも日経225銘柄企業の半数を顧客に持つ。同社のトラベルセキュリティー専門家である黒木康正によれば、日本企業は外国企業に比べ、リスク評価の仕組みが確立されていないと感じるという。

 

「進出先国で何か起こったとき、外国企業はすぐに撤退するが、戻ってくるのも早い。日本企業の場合、グローバル企業でも経験則を持つ個々の担当者に頼っているところがあった。最近になってようやく、組織的な安全対策を取り始めたようだ」

 

高齢旅行者のリスクが増加

海外邦人安全協会の小野によれば、大企業はまだましだ。日本の中小企業は対策が遅れており、そのため外務省は16年、海外で活動する中小企業の安全対策を強化するためのネットワークを設立。17年には、人気漫画『ゴルゴ13』を使った安全対策マニュアルも作成し、意識の向上に努めている。

 

企業でこの程度なのだから、旅行者の安全対策がおざなりになっているのは分からなくもない。インターナショナルSOSの葵は、チベットや中南米など医療システムが発展途上の僻地に行く高齢の日本人旅行者の増加に伴い、旅先で高山病などにかかる人が増えていることも指摘する。なかでも心配なのはツアーで行く人だ。「ツアー参加者は旅行会社に任せきりで、個人旅行者よりリスク意識が低い」

 

では海外旅行のリスクに備えるには、どんな準備をして、どんな対策を取るべきか。旅行会社のパンフレットやウェブサイトを見ても、安全性に関する情報はあまり載っていない。クチコミサイトからSNS、個人ブログまでネットには情報があふれているが、どう判断すればいいかが難しい。

 

情報収集に関してまずよりどころにできるのは、外務省の海外安全ホームページだ。

国ごとに危険情報やテロ・誘拐情勢、医療事情、安全の手引を詳述。危険情報は、エリア・都市別にレベル1(十分注意してください)からレベル4(退避勧告)まで4段階に分類している。旅慣れた人を中心に「厳し過ぎる」「過保護過ぎる」といった声もあるが、参考にはなる。

 

外務省は、渡航先の安全情報などをメールで配信する「たびレジ」という登録サービスも提供している。だが年間1800万人が海外渡航する時代に、累計登録者数は355万人弱にとどまる。本誌がツイッターでアンケートを取ったところ、「使ったことがある」は21%。「知っているが使ったことはない」が24%、「知らない/聞いたことがない」は半数近くに上った(回答数478)。正式な調査ではないが、十分に活用されていないことがうかがわれる。

 

世界には、一生に一度は訪れてみたいと思わせる魅力的な場所がたくさんある。世界経済フォーラムは「観光競争力ランキング」(下右表)を2年に1度発表しているが、これは安全性も指標に入れた上での評価で、危なくない旅行先選びに役立つはずだ。

日本人はかつて団体ツアーで世界を席巻した。その役割は中国人に譲ったが、旅行者としてまだ成熟していないのではないか。

 

今はパスポートとクレジットカード、スマートフォンがあればどこへでも便利に旅行できる時代だ。

 

足りないのはリスクに対する意識と対策、「正しく怖がる」姿勢だけ。それさえあれば、日本人はもっと旅を楽しめるようになる。

 

 

国内で急速に進行するグローバル化

 

就活「外国人留学生」に熱視線 人手不足、海外展開…企業狙い

 

企業側は外国人留学生にも熱い視線を注いでいる。留学生限定の合同企業説明会は盛況で、将来の幹部候補としてグローバル人材を採用したい国際的な大企業だけでなく、将来を見据えて内需企業やベンチャーも関心を寄せる。人手不足に悩む企業が女性、高齢者に次ぐ「高度人材」として、語学が堪能で仕事への意欲も高い留学生に狙いを定めている。

 

「日本で働きたい。いい会社が見つかった」。

企業説明会が解禁された3月最初の土曜日、国内最大級の留学生向け合同説明会「TOP CAREER 2019」に参加した中国人女子大学生はこう喜んだ。

 

この日、東京・新宿の会場に訪れた留学生は1000人超。東大や京大、早慶上智といった上位大学の優秀な学生ばかりで日本語能力も就労意欲も高い。欲しい人材が集まるとあって日本航空や日立製作所、三菱UFJ銀行などグローバル企業41社が顔をそろえた。

 

会場はごった返し、人気のブースでは用意した椅子に座れなかった留学生が立ったまま、担当者の日本語による説明を熱心に聞きながらメモしたり、質問したりしていた。日本語の理解度を試す狙いもあるが、留学生は苦にしていない。

 

鉄鋼に強みを持つ商社、阪和興業人事部の三井悠大郎氏は「1人でどんどん市場を開拓する社風に外国人は合うので採用したい。中国人や韓国人に加え、(南米など)新たな市場開拓先が母国語とするポルトガル語を話せる学生が欲しい」と意気込む。参加企業の担当者から「日本人より就労意欲が高い」との声も聞こえた。

 

説明会を開催した人材サービスのフォースバレー・コンシェルジュ(東京)の柴崎洋平社長は「あまたある国から日本を留学先に選んだわけで、日本語がうまく、日本文化もよく知る。大企業はグローバル人材を採用できるチャンスととらえている」と説明。22年の第1回は12社にとどまった参加企業が41社に増えたのも「トップ大学の留学生のみが集まるというブランド力が高まってきたから」と胸を張る。

 

一方、優秀な学生に仕上げて合同説明会に送り出すのが、外国人専門の人材紹介を手掛けるASIA Link(東京)。「留学生が希望する日本企業に就職できるように手間暇かけて指導する」(小野朋江社長)のが強みだ。

 

同社が毎年3月に開催する合同説明会「社長LIVE」に参加できるのは、同社が事前に選抜した学生のみ。それだけ「クオリティーは高い。2年間で3人を採用した」と語るのは、工作機械などを手がける黒田精工の黒田浩史社長。昨年の社長LIVEでは留学生5人に1人の割合でマッチングに成功しており、参加企業の半分はリピーターという。

 

今年は企業9社に対し、留学生は12カ国・地域から厳選された85人が参加した。「学生が企業を選ぶ売り手市場なので、欲しい留学生を口説くのに企業は必死」(小野氏)で、企業代表者がリレー形式でプレゼンテーションし、本気度を直接学生に伝えた。

 

環境分析などを手がける環境管理センター(東京)の浜島直人取締役は「説明に身を乗り出してくるほど学生のモチベーションは高く、毎年2人は取りたい。(水落憲吾)社長は『全員が留学生でもいい』といっている」と笑う。ベトナム拠点設立に合わせ、ベトナム人の採用を狙う。

 

自治体が企業の採用をサポートする動きも出てきた。川崎市は3月13日、市内で初の合同説明会を開いた。「人材不足が顕著でありながら、年々増加している留学生の採用に二の足を踏んでいる企業がある。留学生との出会いの場として開催することにした」(経済労働局雇用担当課の新沼真琴課長)。当初はどれくらい集まるか不安だったが、受付には長蛇の列ができるほどで、参加23社の代表による「企業のひと言PR」用に並べた椅子が足りず、急遽(きゅうきょ)増やすなど対応に追われた。

 

中国やベトナム、ネパールなどからの留学生170人超を前に企業側の採用意欲も高まり、1分間スピーチでは「留学生の斬新なアイデア、行動力に期待している」「外国人採用を将来の海外進出の足がかりとし、幹部候補生を採用したい」と入社を呼び掛けた。

 

また「国籍も学歴も年齢も関係ない。人物重視」「給与や待遇は日本人と一緒」と働きやすさも訴えた。

 

日本学生支援機構によると、27年度に卒業・修了した留学生約4万人のうち、日本で就職したのは約1万2000人と3割にとどまる。留学生全体では6割強が日本での就職を希望しており、乖離(かいり)は大きい。留学生はチャレンジ精神に富み、起業意欲も旺盛といわれる。海外展開を目指す企業にとってグローバル人材の確保は課題で、留学生への期待度は高まるばかりだ。

 

一方で「自己主張が強く、社風に合わない」「留学生が希望する職種とずれがある」などミスマッチも。「専攻と職種の不一致で就労ビザがおりない」といった外国人採用における法的制約に阻まれることもある。外国人留学生が人手不足にあえぐ日本企業の“救世主”となるには、まだハードルも多い。

 

日本がいつのまにか「世界第4位の移民大国」になっていた

「和食」も外国人なしでは成り立たない

 

これから書くのは、難しい政治や法律の話ではない。すでに身のまわりで起こっているリアルな話であり、「知らない」「よくわからない」では済まされない。本に書いた部分と重なりもあるがご了承いただきたい。

 

厚生労働省の集計によると、いま日本では約128万人の外国人が働いている(2017年10月時点)。

これは届出が義務化されてから過去最高の人数であり、この10年で倍増している(現在、就労が認められている在留資格は、「高度専門職ビザ」や「報道ビザ」「興行ビザ」「技能実習ビザ」など27種類)。

 

政府はこれまで何度となく「移民政策はとらない」と明言してきた。だが、実際にはいつの間にか100万人以上の外国人たちが日本で働いているのだ。

 

都心のコンビニだけでなく、ドラッグストアやスーパー、牛丼屋では多くの「留学生」がアルバイトをしているし、地方でも農家や工場や介護の現場では「技能実習生」が働いている。

 

その波は急速に広がりつつある。気付かないうちに、日本人の生活は外国人によって支えられている。深夜の工場でコンビニのおにぎりを作っているのも多くが外国人だ。

 

ユネスコの無形文化遺産に登録された「和食」も、実はもう外国人労働者の下支えがないとなりたたない。和食の要のダシとなるカツオを獲る漁船でも、コンブの加工工場でも多くの実習生が働いているのである。

 

つい先日、「日本は世界第4位の移民受け入れ大国」というニュースが流れてきた。これはOECDに加盟する35ヵ国の最新データだ。上から順にドイツ、アメリカ、イギリス。日本は韓国を抜いて第4位になった。

 

しかしこれはイギリスがEU脱退を表明する前の2015年のデータなので、ひょっとすると、すでに日本はイギリスも抜いて、世界第3位の移民受け入れ国になっているかもしれない。

 

そんな状況にもかかわらず、日本にはこれまで公式の「移民」の定義すらなかった。

 

いわゆる「移民」のイメージは、「貧しい国から働きに来た人」かもしれないが、たとえば国連などの国際機関では、個人の経済状況には関係なく「1年以上外国で暮らす人」を移民としている。この定義に照らせば、イチローもYOSHIKIも移民だし、日本に一年以上住む外国人は全員移民である。

 

そしていま、日本には約247万人の在留外国人がいる。これはつまり、名古屋市民とほぼ同じ数の「移民」がいるということになる。

 

ちなみに、自民党の労働力確保の特命委員会による定義では、「移民=入国時に永住権を持っている者」であり、「就労目的の者は移民ではない」としている。そもそも移民の定義からして国際社会の認識とは完全にズレている。

 

いま、日本では働き手が足りない。2017年度の有効求人倍率は1.54倍。個人的には景気のよさはまったく実感できないが、44年ぶりの高水準なのだそうだ。現場では人が足りない。

 

今回、政府が外国人労働者受け入れに大きく舵をきった背景にあるのは、深刻な人手不足だ。政府の発表によれば、建設分野だけでも30万人以上の外国人労働者が必要と試算されている。

 

現在、日本では約128万人の外国人が働いているが、急増しているのは「技能実習生」(約27万人)と「留学生」(約31万人)である。今回、政府が本腰を入れはじめたことで、実習生はますます増えていくだろう。

 

今後、日本は加速度的に人口減少していく。しかし、労働人口が減るのは日本だけではない。現在、日本に一番多くの労働力を送り出している中国でさえ、労働人口のピークはすでに2011年に迎えている。

 

今後は労働力不足に陥った国々で、働き手の奪い合いがはじまるはずだ。そして、国境を跨いだ労働力の移動はますます激しく、いよいよ複雑になっていくだろう。